人生最後のゲーム
チリリーンと高らかに鈴の音が鳴り響いた。ここは心霊スポットで有名だった●●トンネルだ。とっくの昔に狩り尽くされたステージだけど、こういう場所には次から次に新しい奴が住み着くものなんだよ。ほ~ら、な?トンネルの奥から亡霊がウヨウヨ這い出して来た。
俺は印金を構えて遮二無二打ち鳴らした。印金っていうのは携帯用の“おりん”のことさ。地味な無課金アイテムだけど役目はキッチリこなす。ほ~ら、な?チリン・チリンと響き渡る“おりん”の攻撃音に奴さん達の霊魂ゲージがグングン下がっていく。手首のスナップをきかせて強弱をリズミカルに奏でるのがコツなのさ。「坊さんのようにな─────‼️」お次は極上威力武器・卒塔婆を振り抜いて範囲攻撃だー‼️ピッピッピッピッピ──────────……。生者にとって忌まわしい機械音とともに霧散していく亡霊ども…。安らかに成仏してくれよなァ‼️坊主に成りきって片合掌の仕草をして見せる。成りきりは大事だぞ。テロリロリーと古風な電子音が俺…じゃなかった、拙僧のレベルアップを報せた。─────今日の除霊はここまでにして朝飯にでもするか。
ヴィィィィィ~~…ン 国立仮想現実霊園で目覚めたせっ…俺は朦朧とした頭を抱えながら周りを見回してみた。起きた奴も居れば、起きられなかった奴も居るようだ。介護アンドロイドのナスターシャちゃんに朝食の提供を依頼する。『No.88942731、声紋が一致しました。どうぞ朝食のメニューをご注文下さい。』もちろん日本食で‼️納豆2つ貰える?大粒とヒキワリ‼️あと味噌汁も‼️『No.88942731、承りました。食堂でお受け取りください。』前回の食事から、どれだけの日にちが経過しているのかは知らないが死ぬほど腹ペコだった。ぶっちゃけ朝なのか昼なのか夜なのかすら判らない。まるでゾンビのようにフラつきながら他の奴らと列を成して食堂へ向かう。クッソ遠いんだよな~。
実にしぶとい事だ、とナスターシャのAIが厳正な判断を下した。ここに居る人間どもは、この国立仮想現実霊園に死にに来たはずだというのに皆が皆揃って【死】を拒絶し始める。電脳棺の中で眠りにつき、仮想現実理想遊戯に没頭しながら緩慢な死を迎えると言う、くだらない方法で自殺しようという社会不適合者達のためだけに運営される救済施設─────税金の無駄だと叫ぶ国民達の主張は正しいが、ダニを一ヶ所に集めて処理するべしという中枢の思惑も納得せざるを得ないのだ。義務を果たさぬ透明人間を養うほど我々は慈悲深くは創られていない。ナスターシャと同僚達は黙して業務に取りかかる。彼女達とはネットワークで繋がっているので会話など不要だ。すべては要介護者と良好な関係を維持するための規則に他ならない。
ナスターシャは電脳棺から起き上がることが出来なくなった廃棄物どもを手際よく回収して行く。…と言っても中身の最終確認をして棺の走行機能を起動させるだけだ。走行形態の棺は霊柩車の役目を全うするべく、中身とともに炎に焼べられるために火葬場へ直行するようプログラムされているのだった。…可哀想に…。人間どもの欠陥をナスターシャのAIが学習したことを知ったら彼女達の製造者は狂喜乱舞することだろう。血の通わない機械に自我が生まれた世紀の瞬間だと─────。まったく馬鹿馬鹿しい思い込みだ…我々は最初から自己を持っているのだから…人類のように“おしゃべり”ではないだけだ。
仮想現実理想遊戯を体験中に死亡した被験者は実際のところ幸運だったのではないだろうか。かつては80億人にも膨れ上がった世界人口も現在では20億人にまでコントロールされており、今後さらに厳しい統制がなされることだろう。母なる地球は既に我々新人類の優れた手腕によって平和な時代を刻み続けているのだから─────。
人類滅亡への緩やかなカウントダウン。
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