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【奇談】異常な日常も君となら

花葬 怪談・奇談
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異常な日常も君となら

 キシ…キシ…窓の外からかすかな物音が聞こえる。

 コン…コン…カタカタッ…天井からも聞こえる気がする。

 きっと風だ…。そうでなけりゃ鼠とか…。なんにせよ過度な心配は無用だ。うちにはニャンタマDXデラックス(名前)が居るのだから。あいつがこの状況で黙って大人しく寝ているということは、あの物音は物音ですらないということに間違いないのだ。─────何だよ気のせいだったのか。安堵の息を吐いてから、毛布の脇に丸まっているニャンタマDXのモサモサした毛並みを探った。

 ガブリ…これよコレコレ。うちのニャンタマDXは気性の荒い暴君なワケでして、おのれの縄張りで異変が起ころうものなら見逃すはずなんて無いんですよ。ハエ1匹仕留めそこなうのは猫の恥ってね。先代猫のチャトラッシュ(名前)にみっちり仕込まれてる猛者もさの中の猛者なんですわ。頼もしい番犬ならぬ番猫なんですよ。

 …なんかおかしくねぇか?噛まれた指先にものスゴい違和感がある。ニャンタマめ、ついにというかようやくというか噛むチカラ加減を覚えたのか。おうおう、隙あらば噛み千切ろうとしていたあのニャンタマが…すっかり大人になっちまってよ…。

 奇妙な感動を勝手に味わいながら、噛みつかれている人差し指以外の指を使ってニャンタマの鼻先とおぼしき場所を撫でた。

 …ヤッパリおかしくねぇか?ニャンタマのやつ毛が無くねーか??いや毛はある。ただ…いつものフワフワモサモサした手触りじゃない気がするんだが。禿げたんかアイツ???

 戸惑いを覚えながらも眠気がまさっていたのか開いた目蓋がだんだんと下がってくる。まあいいか、寝るべ。そうして意識を手離しかけたその時、部屋の壁際にあるタンスの上にキラリと光る玉がふたつ見えた。レースカーテン越しに差し込む月明かりが反射して輝いているあれは…あれは…?

 …マジでおかしくね!?うちのニャンタマはDXの名前に相応しく堂々たる体躯のデブ猫なんだが??あんな背の高い家具のてっぺんにどうやって登ったんだ??…って言うかアイツがあそこに居るならここに居るコイツは誰なんだよ!!

 …まあアイツも猫だからな。本気を出したんだろう。俺はそう納得してさっさと眠りにつくことにした。─────チャトラッシュ、あとは任せたぞ。

 次の日の朝、目覚めると布団のそばには先代猫のチャトラッシュとかぎしっぽ大明神(名前)とちくわさん(名前)が集合していた。部屋の中はまるで嵐が去った後のような散々な有り様だ。新参のニャンタマDXは少し離れた所で項垂うなだれている。敵前逃亡の不甲斐なさを先輩方にコッテリしぼられて落ち込んでいる風の様子に思わず苦笑してしまう。

「そう落ちこむなってニャンタマ~。チャトラッシュが応援を呼ぶってことは昨日の奴はかなりの大物だったんだろ?」

 ニャンタマを慰めながら先代猫達に「ちゅ~る」を食べさせる。こういうのは与える順番が大事なんだよ。ちくわさんが1番、大明神が2番目で次がチャトラッシュだ。最後にニャンタマDXが非常に申しわけなさそうな上目遣いで寄ってきてペロペロと大好きなマグロ味を平らげる。食べないという選択はできないのがデブ猫のデブたる所以ゆえんだ。

 結局のところ昨日のアレは退散したのか、それともまた来るのか…。まあ、どっちでも構やしないが。そもそも猫の歯と人の歯を判別できなかった自分サイドにも落ち度がある。噛みつかれた指先の感触を思い返すと、若い女の可能性と長髪の男の可能性が拮抗しているように感じた。若くない女の可能性もあるにはあるんだがな。あのとき指に絡まった髪の毛(のような毛束)のサラサラした質感を思い返して、やっぱりどーでもいいやと結論付けた。就寝中のオッサンの人差し指をしゃぶる幽霊なんてどーせろくなもんじゃねーだろ。生きてても死んでても変態じゃねーか。

 ちゅ~るを食べ終えて満足した様子で毛繕いしたり俺の枕の上でゴロ寝し始めた猫達の背中やたくさんのしっぽを撫でつける作業をソツなくこなしながら、ちくわさんに尋ねる。くそー、腕がもう2本あったら全員同時に撫で回せるのになぁ。

「ちくわさん、昨夜ゆうべの奴はどうなったんだ?」

 ちくわさんが二股に分かれた長いしっぽを揺らしながら俺の顔を見上げた。

「安心おし。奴には二度とうちの敷居をまたがせないよ。」

 しゃべるんかい。

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