飲酒運転ドライバーを狩り尽くせ
20●0年代、飲酒運転ドライバー殲滅法案が可決されて最初の数年は混沌を極めた。それは至極当然の成り行きだろうと、後世の者達は納得せざるを得なかった。なにしろ国家主導による人権無視が国民総出で行われていたのだから…。
ピピピピピピピピピーーーーーと、甲高い機械音が鳴り響いた。それと同時に道路脇に数メートル置きで設置してある数多の黒い柱に取り付けられている赤色燈が勢いよく回転し始める。まるで出動中のパトカーの回転燈を思わせるソレは、道路を真っ赤に染め上げて辺り一面に例えようもない緊張を強いる。西暦20●2年ともなれば自家用車もほぼ全てに半自動運転機能が搭載されており、道路交通法は従来よりもさらに厳格な改正がなされていた。酒気帯び運転や酒酔い運転に対する罰則は厳罰化の一途をたどり、遂に…と言うべきなのか漸くと言うべきなのか…飲酒運転の現行犯を即時拘束する事が義務付けられたのだった。
パトカーを振り切って逃走するカーチェイスなんて前時代のおとぎ話であり、交通違反車は遠隔操作で運転機能を停止させられ車外へ脱出することなど決して許されない。瞬く間に駆けつけてきた警察車両に取り囲まれて、あとはお定まりのやり取りをかわして逮捕され─────…
パンッ
───道路交通法の度重なる改正の末…より厳正な処分が課せられることとなった飲酒運転の現行犯人は、警察官の公務執行を妨害する等の抵抗が認められた場合に限り銃による制圧が可能とされている。飲んだら乗るな・乗るなら飲むな等と生易しい言葉で甘やかされてきた旧世代の生き残り達があの手この手で車載されているはずのアルコールチェッカーを欺き、今日も一般道路を走行しているのは─────現役世代にとっては厄災以外のナニモノでもないだろう。若く、または幼いこれからの未来を担う命を本気で守るためには聞き分けのない反社会的な者達への過分な配慮は切り捨てていかねばならず───そんな事は何十年も昔から誰しもわかりきっていたはずなのだ。
交通違反車が激減した現在、興味深い事にその他の犯罪率も著しく低下の兆候を見せ始めていた。交通ルールすら守らないような未熟な輩が社会から、あるいは国から消失したことで治安のすこぶる良い平和な街に変化していくとは…お釈迦様でも思いもよらなかったに違いない─────おそらくは。
パンッ
自転車は車両である。スケートボードも車両である。ベビーカーも三輪車もシルバー電動カーも車両である。例外は無い。
パンッ
当然の事ながら道路交通法は歩行者にも適用される。横断歩道以外の車道を横切ることは犯罪行為であるとみなされる。これらは、年齢性別国籍職業どのような事情も考慮されることはない。
ピピピピピピピピピピピピピピピーーーーー…
蜘蛛の巣のように張り巡らされた道路のそこかしこで盛大な警笛が鳴り響き、今日も拡張解釈されて久しい飲酒運転ドライバー殲滅法が粛々と執行されている。現行犯人のほとんどは二度とハンドルを握ることも酒に溺れることもなくなり、社会は円滑に営みを続けていた。
パンッ………どさっ
国家の癌細胞が死滅するその日まで…綱紀粛清の手綱を弛める事は決してありえない。─────後世において、このイカれた法案は国民に最も支持され続けた法律のひとつとして世界中で脚光を浴びたのだった。
赤信号を無視したことの無い者だけが石を投げなさい。
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