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【怪談】ガタついた歯車

ガタついた歯車 怪談・奇談
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ガタついた歯車

「こりゃあ何だ?」若い娘がカバンにぶら下げているようなモコモコしたキーホルダーを指し示す。

ミミハゲサマですよ!今人気の!!後輩が答える。テレビやネットで話題になっている「プリティ☆妖怪モンスター」…らしい。そういや我が家の女達も似たような人形を持っていたな。年甲斐としがいもなくなんてポロリとくちにしようものなら総攻撃にあうに決まってるからな。黙っているのが正解だ。

「どこがミミハゲなんだ?禿げてなんかいないじゃないか。」黒い毛玉で出来た雪ダルマに、それより長いしっぽがブラブラと付いている。そもそも耳が見当たらない。先輩知らないんですか?はぁー、モテないわけっスね。「おい、お前。」一応すごんでみせるが後輩があまりに屈託なく笑うので釣られてコッチも笑ってしまう。他愛もない会話をしているうちに現場に到着した。

コンビニのオーナーが店から出て来て会釈する。困り顔のへの字まゆが前回会った時よりも一層深く刻まれたようだ。「どうも~。また事故っちゃったらしいですね。」実際このコンビニでは物損ぶっそん事故が絶えない。見通しが悪いわけじゃなく不注意としか言いようがないが、車止めを乗り越えて突っ込んだりエンジンルームから黒煙を上げたり小さな事故が非常に多い。つい2日前に客の車同士が接触したという通報で駆けつけたばかりだ。不幸中の幸いでこれまでは怪我人が出たことがない。今日のはまた派手にガラスを割ったみたいだな。追突した運転手の聴取ちょうしゅを後輩に任せてオーナーに話を聞く。監視カメラを確認したいと申し出ると連れだってバックヤードに入る。

「もしかしてまた映っちゃったの?」最初はただの野良猫だと気にも留めなかった。車の下からソイツがシャーッと飛び出して来た時は、モニター越しとはいえ二人とも声を上げて驚いたものだ。オーナーが黙ってモニターを再生する。

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「…いつから店の中に?」ソレから目を外せずに尋ねる。いつもは従業員にチェックを任せていたから、と小さく返事が返る。そうか、いつも店に居たお姉さんが辞めたんだったな。ズームしても鮮明とは言えないが知りたいことは確認出来た。さっきのマスコットと似てなくもない。「こいつは他言無用で頼む。誰かに見られる前にデータも削除しておいてくれ。」オーナーがうなずく。黙っているのが正解だ。

おもてに出るとレッカー車が停まっていて作業を始めていた。後輩が不思議そうな顔で此方こっちを見たがすぐに仕事に戻った。そうだ、黙っているのが正解だ。顔色が良くないのは誰より自分がわかっている。クソ、無性に煙草が吸いたい。

俺達は歯車だ。事故が起きて通報があって現場を検証して報告書を提出して次の現場に向かう。それを繰り返す歯車のひとつに過ぎない。黙っているのが正解なんだ。

…だが、この秘密も黙っていられるか少し不安になる。ミミハゲサマは耳が禿げているんじゃなくて剥げてしまっているんだと…。

…そして長い毛に隠されているが人間のソレと同じ歯並びの口がついているとも。

黙っているのが正解なんだ。だが、 ■■■■■■■■■

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