墓場でスマホを拾ったら…
墓地に置かれたスマートフォンに着信があり、それを受けると亡くなった家族と通話できるらしい…などと言うお涙頂戴の作り話が真しやかに囁かれていた。令和の世の中にそんな馬鹿げた作り話を信じる者も居らぬだろうと眉唾物の噂を放置していたら、寺の敷地内に夜な夜な来るわ来るわ肝試しボーイ&ガールが。御丁寧に墓前に供える花まで用意して恐る恐ると墓地へと歩みを進めていく。ま、こちらからはすべてマルッとお見通しなんだがな‼️どうもはじめまして、拙僧はこの寺の住職です‼️
しかし、草木も眠る丑三つ時に面白半分の遊び気分で墓参りに来るなんて最近の若い連中にしては奇特な遊びを好むものなんだな。カメラをまわしてテクテック?を撮ったりしないのも意外だし。それとも陰キャとかチー牛ってやつなのか?拙僧はオジイサンだからわからんなぁ~。雀卓を囲んだり飲み屋で盛り上がった方が楽しくない?
おっ!?おおっ!!スマホに気が付いたか!!
招かざるとは言え折角の来客ですからねぇ~仕込みもバッチグーってなものですよ。ぐふふ。
テレレレレ~。ここぞとばかりに都合良く電話がかかった。拙僧がこっそり用意しておいたスマートフォンから壊れ気味の電子音が鳴り響き墓地の空気を震わせる。テレレレレ~。テレレレレ~。テレレレレ~。
ほらほら~電話でちゅよー。はやく出なきゃー。ぐふふふふへへへへ。
間抜けでくだらない噂話を本気にして、こんな深夜に寺の奥深くの不気味で陰気臭い墓場にまでやって来た勇敢で哀れな10代の子どもは恐る恐るスマートフォンに耳を傾けた。そして、ひとこと…ふたこと…みこと…スマホの向こうの誰かと静かに語り合う彼の頬は流れ落ちる滴でみるみる濡れていく。
なんでだよ!!
いやいや違うだろー??ここはお前さんがキャーとかギャーとか取り乱して無様に逃げ去るのがお決まりのコースなんじゃないのかよ!?いったい誰と話し込んでんだよ。死んだ家族と??それってもしかしなくても幽霊ってこと??怖っ!!!
興醒めしてしまった拙僧はむくれ顔のまま振り返った。そこには呆れた顔の小鬼がいて、だから何度も説明したでしょー、とせせら笑った。ますますもって面白くない拙僧は、しかめっ面をもう一段階しかめながら考えにふける。
───最初の頃はふざけた連中ばっかりやって来ていたんだよな。アホっぽい格好のチャラチャラした若者達が。そいつらを驚かして追いかけまくって2度とうちの墓地に来ないように躾ていたのが…何十年前だったか…。あの頃は楽しかったよなぁ、菩提樹を電飾でクリスマスツリーみたいに光らせてみたり。墓地にスピーカーを設置してシューベルトの『魔王』をBGMに流してみたり。アイツらもキャーキャー騒ぎながら楽しんでたっけ。だけどさ、拙僧が事故でウッカリ暇になった後…少しずつ客層が変わっていったんだよな。そんな時に現れたあの小鬼は彼岸からの使いだと名乗り、退屈で仕方がない拙僧に様々なことを教えてくれた。拙僧がこの墓地に留まっていることが原因で彼岸との境界が曖昧になってきているとかなんとか。…バカで可愛げのあったアイツらも、とっくの昔に老人になっているとかなんとか。はあ~…わかっちゃいるんだけどさ、うん。
…ああやって死んでしまった家族と接触するのは良くないことなんだよな…。あの子は生きているんだから、これからも生きていかなければいけないんだから───こっち側に引っ張ったら───駄目に決まっている。わかっちゃいるんだけどなぁ。…在りし日の楽しい思い出がいつまでも忘れられずにいた拙僧は、今夜こそ決断を下そうと思う。いやもう迷うことなく決定な‼️
拙僧…成仏するわ…。
この世って退屈じゃん?
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