西暦2022年2月22日【猫の日】記念🎊
招き猫
あれは…まさか…!?「太郎吉!?太郎吉!!」俺は目を疑った。交差点のど真ん中を、人の波を上手に避けながら向こう側に走り去っていくのは紛れもなく太郎吉だった。見間違えたりするもんか‼️太郎吉は、あいつが小さい頃からずっと、ずっと俺が育てて来たんだ‼️「太郎吉ー‼️待ってくれ、太郎吉ー‼️」待ってくれ!行かないでくれ!!戻ってきてくれ太郎吉!!声が届いたのかどうか、太郎吉は路地裏にスルリと消えていった。諦めきれない俺は太郎吉の姿を追い求めて路地裏に走り込んだ。
「はっ!!」と思わず息をのむほど、そこには得体の知れない空気が漂っていた。例えるならば…そう、異世界に迷い混んだような─────。にゃあーん、猫の鳴き声がかすかに聞こえた。太郎吉…捨てられていたのかはわからない…駐車場のすみで震えていたガリガリのお前を俺は両腕に包むように抱えて家に連れて帰った。お前が元気になって、いっぱい飯を食って、大きくなって…お前は俺にとってかけがえのない大事な家族も同然だったんだ。それなのに、俺が、俺がちゃんとしてなかったから…ドアをきちんと閉めてさえいたら…。
「仇を討ちませんか?」突然聞こえた声に驚いて振り仰げば、小柄な女が少し離れた場所から俺を見ていた。「仇…?」女が静かに近づいてくる。「…あなたの猫もあの野蛮人に殺されたのでしょう?」声音は抑えているが、憎しみは抑えきれていなかった。───そうか、彼女の猫も…犠牲に…なったのだろう。彼女に誘われるままに裏路地のスナックに入れば、15人くらいの人達が話し込んでおり俺達に気がつくと会釈をしてきた。カウンターの向こうには厚化粧の派手な装いの女が立っていて、グラスの中身をかき混ぜている。「真奈美さん、頼むよ。話だけでも聞いておくれよ。ご覧よ、また1人迷いこんで来たじゃないか。」「あなたの猫ちゃんも酷い目にあっちゃったのかい?可哀想にねぇ。」皺だらけの小さい婆ちゃんが哀しい顔をして俺に話しかける。俺は返事に困りただ黙って俯くしかなかったが、その場にいる誰も責めたりはしなかった。彼らも彼女らも哀しみに暮れていたからだろう。この人達の猫も…あの鬼畜野郎に殺されたんだな…。もう一年前になるか、全焼したコンビニの焼け跡から沢山の猫とイカれた男の死体が発見された事件─────。逮捕されたコンビニのオーナーは自我喪失状態になり、証拠不十分で捜査も進まず今もまだ何処かの施設で治療を受けている…らしい。
「ふざけるなって言うんだよ‼️うちのミーちゃんに酷い事しておいてよぉ‼️」太った爺さんがテーブルを叩いて怒号をあげる。「許せないよ。モモコちゃんが何をしたって言うの⁉️あの辺りの猫ちゃんを根こそぎ攫って❗酷い目にあわせて‼️」さっきの婆ちゃんもボロボロ涙を流しながら憤慨する。「自分は何もわからなくなったフリをしてヌクヌクと3食昼寝付きかい?マリアンヌはもう大好きなササミも食べられないって言うのによォ‼️」全員が全員、我が身を切られたように哀しみ、苦しみ、怒り、憎んでいた。無理もない事なのだとわかっていても、憎悪に塗り固められた人混みの中に混じるのは吐き気を催すほど居心地が悪過ぎた。「真奈美さん、後生だから手を貸してくれないか。あんたの…ミミハゲサマの力で…あの外道に天罰を与えてやってくれ‼️」真奈美と呼ばれた女性が手を止めて口を開いた。「ミミハゲサマはもう居ないのよ。山に帰ったの。何度もそう言ってるじゃないの。」「本当に?ミミハゲサマを一人占めしているんじゃないの?」俺をこの店に導いた女が声を荒げる。「あなたは良いわよね、サスケ君もコジロー君も無事だったんだから。私の、私のタマサブローと姫ちゃんはッ❗…ううぅッ‼️」居たたまれなくなった俺は、黙ってそっと外に出る。階段に腰掛けて頭の中を整理していると裏手の窓から猫が2匹こちらをジッと見ていることに気が付いた。呼ばれているような気がして近くに寄ると2匹が話しかけてきた。そうか、これは夢だったのだ。「お兄さんはお家に帰った方が良いよ?」「ねー。今ならまだ間に合うもん。」「ミミハゲサマは悪い人しかやっつけないから、悪い人になっちゃダメだよ。」「お兄さんは大丈夫だよねー。悪い人は怖いから僕達すぐにわかるもん。」サスケ?コジロー?「はーいママ。」「ママー、お腹すいたよ。ご飯まだ?」2匹は真奈美の声がする方に走っていった。俺はボンヤリとしたまま歩き、いつの間にか喧騒の中に戻っていた。飼い猫を無残にも殺害されて憤る気持ちは痛いほど理解できる。だけど、逮捕されて勾留中の容疑者を襲撃しようというのはどうなんだろうか。─────それも、ミミハゲサマとかいうオカルト染みた妖怪?に縋って…。藁にでも…という気持ちの表れだとすれば納得はできるが…しかし全くわからない…何故俺はあの不可思議な集会に招待されたのだろうか…。ポケットからスマホを取り出して待ち受け画面の中の変わらない太郎吉を見つめる。閉め忘れたドアから逃げ出した俺の飼い犬が、舌を出した満面の笑みを浮かべていた。
もしもし?もしもし?見つかったんですか?怪我は??無い!?─────良かった。太郎吉、太郎吉!!ああ、良かった。すぐに、すぐに迎えに行きますんで!!ッはい!はい!!よろしくお願いします!!!太郎吉待ってろよ、今すぐ迎えに行くからな!!!
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