耳剥ぎ様
ッキ───────!!ドガッシャン!!!
「マジかよ…。」猪が出るとは聞いちゃいたが、どう見ても熊だろ、これ。
3メートルくらいあるんじゃね?えっ?デカすぎねぇ?えっ?どうすんのこれ、取り敢えず110番すればエエの?
着信が鳴ったので応答する。爺ちゃんからだ。「もしもし?政夫、お前いつまで買い物に行っとるんだ?どーぞ。」「爺ちゃん!俺政志!政夫は父ちゃんだから!!それより俺、熊轢いちゃったみたいでさぁ。これどうしたらいいの爺ちゃん。やっぱ110番?」「熊ぁ?お前ぇ、俺のクルマでなんばしよっとか!!どーぞ!!」(無線じゃねーよ爺ちゃん!)「ごめんって。修理代は俺が出すからさ、それより…、」
ガンッ!!ゴンッ!!ギギギギギギィーッ!!!
何だよこれっ!!熊が軽トラに体当たりして───!!!熊じゃねえええええ!!!
「政信?どうした、何の音じゃい。どーぞ!」「爺ちゃん熊、熊じゃねえ!!化けもんだ!!化けもんがクルマ揺さぶって!!あ痛っ!!」「化けもん?落ち着け政治。どんな化けもんじゃい。どーぞ!」
黒い毛むくじゃらで熊みたいにデカくて、アッ!しっぽがある!!毛が逆立って人の胴回りくらいにボーボーに膨らんで…!!
「…政志、お前他にも動物轢いたんか?」「は?」「轢いたんだな?」
ゴンッ!!ゴンッ!!ゴンッ!!ゴンッ!!ゴンッ!!
「…タヌキ!急に飛び出して来て避けられんくて!!」
ギギギ…ズズン!!ギギィ!!ドン!!ギギィ─────!!
「そんでどうした?ちゃんと弔ってやったんか?」「えっ?」「そのままにしてズラかったんだな。生きとるか死んどるか確かめもせんで。政志、お前あきらめろ。」
キキィ~~~~~ケェェ~~~~~~。
「あきらめるって何だよ爺ちゃん!!た、助けてくれよ!!」「耳剥ぎ様は命までは取らねえ、いいか政志あきらめろ。」「そんなっ!!」「お前がここで覚悟を決めねえと耳剥ぎ様が街までついて行ってしまうからな。あきらめろ、お前の罪だ。」「待って爺ちゃん!!!」
電源ボタンをギュウッと押した。ケータイってヤツにゃなかなか慣れねえな。画面にデカデカと時間が表示されているのに、どうしても家の古ぼけた時計を見てしまう。10分くらい経ったら捜索願いでも出してやるか。麓からウチまで30分以上かかるわけだがな。つけっぱなしのテレビじゃ最近やたらと人気のアニメが始まっていた。
『祟って砕けろ★プリティ☆妖怪』プリモンから良い子のみんなにお願いだモンス★お部屋を明るくして観て欲しいモンス☆
何となしに眺めながら、かつては耳があったところを摩る。まぁ少しばっかり不便にはなるがな。そう嘯いて骨伝導ヘッドフォンを外した。
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