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【怪談】虎か豹か

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西暦2022年2月22日【猫の日】祝🏅(寝過ごしちゃった。)

虎か豹か

あり得ないことが起こりうる。最近はそんな事ばかりだけど、こればっかりは言わせてもらいたい。あり得ねえだろう、と。友人と待ち合わせたいつもの駅前に向かおうと、近道したのが運の尽きだったなんて─────いやマジであり得ねえから‼️─────夜更けの児童公園の中を急いで通り抜けようとしていたら、ベンチの足下に何やら黒い物体がゴロゴロ転がっているのに気が付いた。ゴミ袋か?そう思いながら通り過ぎようと─────?

え?なんだ?この“におい”は?鼻腔をくすぐ鉄錆の匂い…!?錆?違うんじゃないか??もっと生温いような、粘つくような…突き刺すような?例えるならば血のような??

うわっ!わわっッ!!ヒトじゃないか!!!黒いゴミ袋のように見えたいくつかの塊に、今にも消えそうな頼りない街灯の明かりが辛うじてかかっている。黒ではなく毒々しい赤黒い液体が肉塊をぬめぬめと彩っていた。容赦なくぶちまけられた惨状に堪らず嘔吐してしまう。け、警察!!霊柩車!!タクシー!!!錯乱したまま地べたを這いずり、助けを求めに公園の出口へと向か─────、──────────。時が、呼吸が、鼓動が、一瞬にして止まる。これは比喩だが少なくとも当人にはそう感じられたのだ。視られている…!?誰か…いやナニカに…背後?頭上?あの植え込みの中から??まるで値踏みしているような視線を向けられる意味を、自分に流れる遥か遠い祖先の…動物であった頃の遺伝子が忘れずにいて全身全霊で警告してくる。これは、これは、これは、捕食者の視線だ!!!獲物を吟味する絶対的な上位捕食者の舌なめずりが脳内に響き、五臓六腑小骨の一本にいたるまで激しく震え上がった。動いたら最期おわりだ、喰われる!!!蛇に睨まれた蛙の如く、這いつくばった姿勢のまま微動だに出来ずに時間だけが刻まれていった。どれ程経過したのだろうか…。静寂を破り、暗闇を切り裂いて近づいてくる車があった。た、助かった…パトカーだ───!!!半泣きの顔がひきつった笑みを浮かべる。赤々とライトを回転させながら公園前に停車して慌ただしく警官が駆け付けてきてくれた。…もう安心だ!!!

「あーりゃまぁ、もう手遅れっすねぇ。1…、2?3体分かなぁ?小さいヤツばっかりっすね。ずいぶん腹が減ってたんだなぁ“たま”の奴。」「まったく…後片付けする身にもなってくれよ。ホームレスならともかく捜索願いが出てる奴らは面倒だぞ。」「いっそ残さず全部クってくれたら楽なんですけどね~。はははっ。」

…なんだ?何を…言っているんだ?この、この警察官達は??

「あ、あの」恐る恐る呼びかけた通行人に、警察官の制服を着た二人組がそろって面倒臭そうな一瞥いちべつを寄越した。「……………???」「“たま”、良いぞ。ここまで散らかしたんだ、どうせ片付けるんだから一緒だろう。」「そっすね。」「「クっていいぞ。」」

獣(けもの)に蹂躙されながらも脳の一部は冷静さを保ち、二度と夜の公園を横切るまいと誓いを立てる余裕さえもあった。眼球に鋭い爪が突き刺さる直前にとらえた獣は、しなやかで美しい毛並みをそびやかした虎の姿をしていたと認識していた。長い尾を鞭のようにふるって飛びかかる動作は俊敏で優雅でもあり、或いは豹なのかも知れなかった。…まぁ、どちらでも構わないだろう。自分にはもう関係の無い話なのだから─────。

「はははっ。“たま”の奴満腹になってご満悦みたいっすね。」ゴロゴロと雷鳴のような轟音が辺りに鳴り響いている。「おいおい、勘弁しろよ。何のためにサイレン切って来たと思ってるんだ?コイツ。」舌打ちしながらも顔は笑みを隠せない。この二人と“たま”の関係は推測の域を出ないが、彼らが獣に寛容なのは明らかだろう。獣も彼らを信頼しているらしく撫でてくれと言わんばかりにゴロゴロと喉を鳴らしていた。虎なのか豹なのか、或いは─────鳴き声を聞けばわかるのかも知れない。

うちの“たま”はゴロゴロしている時に撫で撫でし過ぎると豹変しますから。

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