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【怪談】階段

階段 怪談・奇談
怪談・奇談
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階段

下りても下りても終わりが見えないっ‼️どっ、どうなってるわけ⁉️大声で叫びだしたいのを必死で我慢した。階段はユルい螺旋らせんを描き永遠に1階までたどり着くことはできそうにない。このまま下り続ければ、あるいはブラジルまで行けるんじゃないかとバカ兄貴が自分で言って大笑いしていた冗談が浮かんで消え去った。それどころじゃないわよ‼️───アイツがすぐそこまで来ている───。「ッ!!!」足がもつれてその場にひざから崩れ落ちる。

─────どうしてこんなことに─────智香ちかは死ぬほど後悔していた。兄貴の職場に着替えと差し入れなんて持って来なければ良かったッ!!!持って来なければ良かったーーー‼️たーーー‼️たーーー❗たーー!!たーー!思わずくちからカタパルト射出してしまった本音が反響する。それを合図としたかのように階段を照らしていた非常灯がフイと消えた。智香ちかは震え上がったが諦めたわけではない。床を這って手探りで階段を下りて行く。その必死の形相は決して誰にも見せられるものではなかった。ナメるんじゃないわよ─────ッ!!

てん…てん…てん…。暗闇で音が響いた。這いつくばって息を潜めた智香ちかの真横を何かが落ちていった。てん…てん…てん…と弾むような音は…もしかして…ボール?

眼をらしても何も見えはしない。でも何かが…誰かがそこに居る…。階段の下から私を見上げている。頭の中で勝手に姿をかたどる。柔らかなボールを両腕に抱いた小さな女の子が私を見上げている…間違いなく!!!

智香ちかは腹をえて立ち上がった。逃げても無駄なら堂々と対峙するのみだ。心がはがねのように固まったのを見計らうようなタイミングで灯りが戻った。

階段の踊り場には想像したままの光景があった。…むしろ数倍おどろおどろしい様相をしていたが智香ちかおくすることなく宣言する。「あなたの相手をするつもりはないの。邪魔よ❗退きなさい‼️」ねぶるような怨みがましいまなこで禍々しくほとばしる邪気を放つ血塗れの幼女が一段、また一段と階段を上がって来る。それを見た智香ちかは目を細めて拳を握った。

1階の非常口からエントランスに出ると、警備員姿の兄貴が待ってましたとばかりに駆け寄ってきた。智香ちか~、お前何やってんの?階段を転がり下りたり、いきなり匍匐ほふく前進始めたりさぁ。監視カメラで観てた俺と後輩くん、笑いを抑えるの大変だったんだぞぉ、にゃははは。

妹にジロリと睨まれたくらいで動じる兄ではない。そんなことより…お兄ぃ❗どうなってるのよこの美術館は‼️エレベーターは点検中だし、エスカレーターは動かないし、非常階段はアレだし‼️

アレって何だ?と思いつつ教えてやる。そりゃとっくに閉館してるし、営業時間が終わればゲスト用のやつは稼働させないだろ普通。スタッフ用なら別だけどさぁ。そもそも警備室は1階にあるのに、何で上に行ってるんだよ??─────。─────。─────。だって、だって猫の鳴き声がしたんだもん…。だんだん上のフロアに行っちゃうから、心配でつい追いかけてたら迷っちゃって…。今思えば猫の声っていうか、猫の鳴き真似マネをした子供の声だったのかも知れない…。こんなこと、お兄ぃには知らせない方が良いに決まってるわ。うん。

それで?と兄に問われて、いつの間にやら手ぶらになっていたポンコツな妹は来訪らいほうの目的をようやく思い出した。なお、余談であるが彼女が下りて来た非常階段の踊り場にはペチャンコに潰れたビニール製の何かの残骸がのこされていた、と言うか散らばっていた。

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